ふつうの人でも夏に運動したときに、1時間に1リットル以上もの汗が出ます。このような大量の汗はどこから出てくるのでしょうか。
体温調整に使われる汗というのはエクリン腺という汗腺でつくられます。エクリン腺は、ほぼ全身の皮膚下に分布しており、その数は200万から500万個ぐらい1人の人間が持っています。
このうち実際に汗を出して活躍しているエクリン腺は、日本人の場合で約230万個にあります。これらの活躍している汗腺を能動汗腺といいます。
この能動汗腺は、手の平や足の裏、頭、顔、額に多く、1cm平方当たり300個以上存在します。他のところでも1cm当たり100から200程度の数があります。
ひとつの汗腺では、1時間に1000分の1ミリリットル程度しか発汗しませんが、汗腺の数が200万以上もあるので、大量に汗をかくことができるのです。
エクリン腺のほかにアポクリン腺という汗腺があります。アポクリン腺の多くは、わきの下や陰部周辺部など剛毛が生える部位にあります。 その数は、1cm四方に数十個ほどになり、エクリン腺に比べて少ないです。エクリン腺の出口は毛のない場所にあるに対して、アポクリン腺の出口は毛穴の側面にあります。
アポクリン腺は、管の内壁の細胞の一部がちぎれ、細胞の中身じたいが汗として分泌します。そのためアポクリン腺からの汗は、エクリン腺からの汗には含まれない、特有の脂質やタンパク質が含まれています。
このような汗腺の活動は、汗腺のまわりにある交感神経によって制御されています。この神経はは、脳の視床下部にある発汗中枢とつながっていて、この発汗中枢は深部体温を感じるはたらきをもつ温度受容体という神経を持っています。皮膚や内臓などの全身各部の温度情報なども発汗中枢に集められ、体温上昇に伴い汗を出す指令を出します。
発汗中枢の異常な働きで、汗を必要以上にかいてしまうことがあります。この発汗異常を多汗症といいます。多汗症で最も多いのが、手のひらや足の裏から大量に汗をかく掌蹠(しょうせき)多汗症です。
他にわき、頭部、顔の部位にも多汗症があります。これはさきほどのエクリン腺の能動汗腺の分布位置と同じになります。最近の調査では、日本人の5.3%が掌蹠多汗症であるというデーターがあります。日常生活に支障をきたすような重症の患者さんが全国に80万人います。重症の患者さんでは、使っている携帯電話やパソコンが汗でこわれてしまうことがあります。
発汗異常には、他に原因があるときがあります。結核やがんなどによる発熱性の病気、甲状腺の病気で基礎代謝が上がる病気、薬剤による副作用による場合、脳梗塞や事故による脳や神経の損傷による場合などです。これらは続発性多汗症といい、原因を取り除く病気治療が必要になります。
多汗症の原因となっている病気がない多汗症を原発性多汗症といいます。原発性多汗症は原因となる病気がないので、発汗自体をおさえる治療が必要になります。
発汗自体をおさえる治療方法には電気療法があります。多汗が気になる部分を水道水に浸し、その水に弱い電流を流す「イオントフォレーシス」という方法です。
塗り薬による治療法は、塩化アルミニウムを有効成分とする塗り薬を、多汗が気になる部分に毎日塗りこむ方法です。
また、内服薬で汗腺につながる神経の働きをおさえる方法もあります。
手掌多汗症の手術には「胸腔鏡下胸部交感神経切除術」(ETS)がある。内視鏡と電気メスで脇の下の交感神経を切除する方法です。
しかし、この手術では、手掌多汗症は治るが、別の部位の汗が増える「代償性発汗」と呼ばれる副作用が、程度の差はあるもののほとんどのケースで起きると言われています。
気温が高いときや辛いものを食べたとき以外にも、手に汗をかくことがあります。緊張したり、びっくりしたりすると手などから汗が出ます。
このようにストレスを感じたときに出る汗を精神性発汗と言って、発汗中枢と別の中枢からの指令により出ると考えられています。
精神性発汗というのは、手のひらや足の裏で見られ、これらはすべり止めのために汗をかくと考えられています。
例えば、紙の枚数を数えるときに、指先が乾いているためにうまく数えられなかたということがありませんか。お札を数えるときに、指先をよくぬらしますね。汗はすべり止めになるのです。
動物として緊迫した状況のときにどうして汗が必要かというと、獲物に襲いかかるときや捕食者から逃げる際に足がすべらなくするためだと考えられています。
動物の実験で犬やねずみなどの動物が、このような状況のときに足の裏から汗をかくことがわかっています。生きるための汗。大昔からのなごりが精神性発汗ということになります。
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